7.切れない走り

朝7時過ぎに目覚める。
気になる天気は・・・雨は降っていない。
暫く、おそらくは午前中は大丈夫な感じだ。
昨日の残飯・・いや計画通り朝食用に残しておいた食料を平らげる。
荷物をツーリングバッグに収納し、えっちらおっちらと運ぶ。
バイクに積み込んで、ホームセンターで買い込んだ木材でバッグを固定して、さぁ出発。

どうやらこの近所、本日は子供の運動会らしい。
拡声器で音声が流れる。
「本日は予定通り運動会を開催・・・」
旅行者はお呼びでは無いだろう。
私は苦笑と共にバイクに跨る。
目的地は新宮。
311号を南下する。

10月のツーリングで肝を失うかと思ったあの道だ。
今回は大丈夫・・・軽くクラッチを切って発進。
快調に・・しばらく快調に走るも、何だか・・・ギアの入り具合がおかしい。
切れが悪いのだ。
オイルも交換したてだし・・・?
クラッチの握りがふにゅふにゅである。

どうやらクラッチワイヤーを調整するネジの部分が緩んでしまったのだろう。
振動の多いシングルエンジンではよくあることだ。
一旦停車して、工具を取り出す。
調整し直さなくっちゃ。
プライヤで調整する。
変だな・・・どれだけ締めてもクラッチの遊びが減っていかない。
調整部でなく、より根元に近い部分をレンチで調整する。
どれだけ調整しても遊びが変わらない。
ついに面倒になり、素手でネジを回す。
手はあっという間に真っ黒だ。
???

あまりに不信なのでレバー周りを見直してみる。
ワイヤーが・・・千切れ掛かっている。
半分は確実に千切れているだろう。
長年バイクに乗っているが、ワイヤートラブルは初めてだ。
海外旅行に出る連中は予備のワイヤーを本来のワイヤーと同じ位置に差し込んでテープで固定しておくと聞いたことがあるが・・・
いずれにしてもここで補修は無理だ。
前回新宮の42号沿いにバイク屋があったので、そこへ行ってみよう。
クラッチワイヤーが切れると運転できなくなるから、ギアチェンジは回転数を合わせてシフトアップ。
少ない信号で停車時は停止前に1速と2速の間のニュートラルにうまく落とし込まねばならない。
手間な話になった。

雨が降ってこないのが救いである。
1時間ほど走って海沿いの42号に入る。
5分も走るとバイク屋が!

「クラッチワイヤーが切れかけてしまっているのですが・・・」丁重に相談する。
「在庫無いよ。」あっさりと返事をされる。
「何とか家まで走って、万一切れてしまったらそこでプロに頼むんだね。」
いつも思うが、バイク屋って、職業人というより趣味でやってる素人なんだな。
結局、ワイヤーが切れたとき、自分で繋ぐ(ことができるかもしれない)ためのワイヤーを繋ぐパーツを数百円で売りつけられて店を出る。
やれやれだ。

感触としてはすぐにワイヤーが切れる気配はないし、後はクラッチなしのギアチェンジの技の見せ所だ。
気を取り直して、次の目的地へ。

すぐに神倉山に着く。
ここは山頂からの展望が素晴らしい。
停車すると、客待ちのタクシーの運転手に話しかけられる。
「どこから来たのかね。」
「名古屋です。」
「これからは?」
・・・・・・
「この坂はきついからね。まぁ頑張りなさい。」

確かにこんな傾斜のきつい石段はここ以外ないのじゃないか。
しかも自然石っぽいし・・
少し上に登って振り返ると怖くなる。
万一転落したら命はないな・・
そういいつつ、途中でカメラのシャッターを切りまくる。
5分ほど登って小休止。

そこにはジャージ姿のおじさんが。
話しかけられる。
地元の神社フリークらしい。
天河の宮司が・・・玉置の神社は・・
私が余りにも話しかけやすい雰囲気なのか地元民の性格か、
界隈の神社で話しかけてくる方は多い。
暫く休憩して再出発。
やがて山頂に。

昔登ったときは夏だった。
今はもう晩秋だ。体力的には楽勝だ。
見覚えのある岩が見える。
ゴトビキ=カエル岩だ。
ここはご存じの通り、小生の小説中に登場する場所だ。
そして主人公はこの神社の神様の名を冠する必殺技を身に付ける。
限りなく軽い小説だけど、罰を当てないでね・・・神様。
お賽銭を上げて参拝。
限りなく雨に近い空模様だ。
急いで山を下るとバイクに跨る。

5分ほどで熊野速玉大社だ。
駐車場まで来ると、観光バスだらけ。
観光客も一杯だ。
ぽつりぽつりと小雨が降り出す。
急ぎ足で社殿へ向かう。
この季節、七五三だった。
本殿の前で子供連れの家族が神妙に椅子に座り、宮司さんが高い声で祝詞を上げている。
団体客が旗の周りに群がっている。
とても落ち着いて参拝する雰囲気ではない。
記念写真を撮って、退出する。
駐車場に戻る。

雨が本格的になってきた。
今まで待ってくれていたという感じだ。
今回の旅行のために備えた雨装備を取り出す。
ブーツカバー・レインコート・レイングラブ・ツーリングバッグカバー・・・
一通り装備するのに20分ほどかかる。
途中で観光バスから降りた中年夫婦に話しかけられる。
息子さんがバイクに乗っているそうだ。
やはり私を20代はじめと勘違いしている。
私は夢枕獏さんの小説に出てくる・・・いや、何でもない。

雨の中、名古屋へ走り始めた。
前回と違って真昼だ。
しかし、今回はクラッチが使えない。
飛ばしたくないが、1速2速で回転数を上げないとギアをシフトできない。
突っ走る。

熊野の海岸沿いのモスバーガーで遅い昼ご飯を・・
雨合羽で着ぶくれた格好で店内へ。
大抵は嫌な顔をされるが・・・
しかし、アルバイトの女の子は丁寧に応対してくれる。
私が20代?の好青年!のせいだろうか・・・
温かいハンバーガーとコーヒーを胃袋に納める。

寒さも厳しくなる中、出発する。
この着膨れた装備では繊細なテクニックでバイクをコントロールなどできない。
大雑把にアクセルを開けて、ゆっくりとギアをアップする。
でも回転数を上げないとギアをシフトできないのだ。
複雑な条件の中、バイクを走らせる。

長いトンネルに入る。
シールドが曇り始める。
外とトンネル内の気温差は想像以上だ。
すぐに目の前が白一色に。
足元の1m先の地面しか見えないぞ。
時速80kmで走行中なんですけど・・・
進路が2mずれたら事故必至だ。

最終手段!
一気に速度を時速20kmまで落とし、フラッシャーを焚き始める。
そして、シールドの内側にグラブを差し入れ、拭う。
漸く視界を確保したとき、はるかに引き離した10tトラックがすぐ後ろまで来ていた。
慌てて、速度アップ。
恐ろしい目にあった。

夕方に松阪に到着。
雨が止む。
当分雨が降らないと見極めて、装備を通常に戻す。
おかげで20時前には自宅にたどり着いて、今回の旅は終わりを告げた。
by dokuzenryu | 2007-01-03 23:34 | ツーリング


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